物質関連障害(アルコール・薬物依存症など)
物質関連障害とは、アルコール、覚醒剤、大麻、危険ドラッグ、睡眠薬などの精神に作用する物質の「有害な使用(乱用)」や「依存」などを指す言葉です。物質関連障害は、自殺の原因としても、うつ病に次ぎ大きな問題となります。
ここでは、私たちの生活の中で最も馴染深いアルコールを中心に説明します。
アルコール(お酒)
急性アルコール中毒とアルコール依存症
アルコールを摂取すると体内では血中アルコール濃度が上昇し、酔っぱらった状態「酩酊(めいてい)状態」となります。アルコールは少量摂取では緊張を和らげたり、自信が湧いてきたり、楽しい気持ちが出てきたりします。動悸や顔が赤らむといった自律神経症状もみられます。量が多くなるにつれて、呂律が回らくなったり、千鳥足になったり、寝てしまったりと意識レベルも低下していきます。更に血中濃度が高まると、意識が完全に消失し、呼吸や循環を司る脳機能も麻痺し、死に至ることもあります。これが「急性アルコール中毒」です。急激にアルコール血中濃度を高めてしまう一気飲みは、急性アルコール中毒となる危険性がとても高いのです。
一般的に「アル中」と呼ばれているものは、正しくは「アルコール依存症」と言います。かつて『慢性アルコール中毒』と呼ばれていた名残です。アルコール依存症はアルコールを長期間にわたり相当量を摂取することによって、精神的にも身体的にも依存するようになり、生活に大きな支障を生じさせる脳の病気です。様々な精神症状に加えて、肝機能障害などの数多くの身体合併症を引き起こします。アルコール乱用や依存症によって自殺、暴力や飲酒運転など社会的な問題に発展してしまうこともあります。
症状
- アルコールに対する強烈な欲求(渇望)。(精神依存)
- 繰り返し飲酒することによって酔いの効果が出にくくなるため、知らず知らずのうちに飲酒量が増えてしまう。(耐性)
- 自分で飲酒量や飲酒の頻度をコントロールできなくなってしまう。
- 何かのタイミングで飲酒量が減ったり、飲酒できない状況になったりすると、手の震え、発汗、強い不安、不眠、幻覚などの不快な離脱症状(いわゆる禁断症状)が出てくる。(身体依存)
- 仕事や趣味などよりもアルコールを手に入れることや飲酒に多くの時間をかけるようになる。
- 飲酒によって問題が生じていることが分かっているにもかかわらず、飲酒を続けてしまう。
- 肝機能障害(肝炎、肝硬変)、脳委縮、低栄養、糖尿病、骨粗しょう症などの身体合併症
- うつ病などの精神疾患の併発
原因と依存症になるプロセス
元々お酒に強い体質(飲んでも顔色が変わらないタイプの人)、家庭内不和、職場不適応、うつ病などの精神疾患といった【生きづらさ】や、飲酒しやすい環境などが影響すると考えられています。アルコールは不安や緊張を取り除き、一時的に気分を高揚させる作用があり、入手も簡単で社会的にも認容されているため、精神的に依存しやすいものと言えます。リラックスや苦痛を和らげる手段として飲酒を繰り返していると、耐性によって使用量が徐々に増えて身体的にも依存していきますので、お酒を止めると、つらい離脱症状が出てしまうようになります。離脱症状をおさえるために飲まずにはいられないという悪循環に陥ってしまうのです。初めは晩酌程度だったものが、迎え酒や、仕事中にもお酒が欠かせなくなり、生活に大きな支障を来すようになってしまいます。
診断・治療
診断と治療は、アルコール依存症の診療を行っている精神科医療機関でなされます。治療は節酒・断酒を目的として、認知行動療法や薬物療法(【抗酒剤】などを用います)が併用されます。入院治療を要する場合もありますが、原則として本人の治療意思と同意による任意入院となります。併存する精神疾患や身体合併症の治療が必要となることもあります。その他、断酒会といった自助グループへの参加、精神保健福祉センターでの依存症回復プログラムや家族教室参加など医療機関以外でもサポートを受けられます。
その他の薬物
ニコチン、有機溶剤(シンナーなど)、大麻、覚醒剤、オピオイド、コカイン、幻覚薬、睡眠薬や抗不安薬などその他の薬物においても、基本的にはアルコールと同じように依存を生じます。ただ、薬物の種類によって耐性を生じやすいもの、身体依存を生じにくいものなど差があると言われています。アルコール依存症と同様に、依存症に至る背景には様々な【生きづらさ】が関与しており、自殺のリスクは高いと言えます。薬物の作用で多幸感、泥酔感、誇大感などがみられる反面、虚脱感や興奮、幻覚妄想といった精神症状がみられることもあり、突発的な自殺の原因になることも稀ではありません。治療法は個人や家族に対する認知行動療法、自助グループ参加や施設入所などが挙げられます。
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