特集 いきものコラム
インタビュー「犬がつなぐ人と自然」 国連生物多様性の10年市民ネットワーク代表 坂田昌子さん
日本人は昔から自然と適切な関係を保ってきました。しかし、現在は人と自然とのつながりが薄れ、里山の荒廃や野生鳥獣による被害など、様々な課題が深刻化しています。自然と上手に付き合うにはどうすればよいのでしょうか。
今回は、さがみはら生物多様性ネットワークの会員であり、国連生物多様性の10年市民ネットワークの代表を務める坂田昌子さんにお話を伺いました。
日本人と犬
犬は、もっとも日本人とつきあいが長い生き物です。歴史を紐解けば、縄文時代の遺跡から犬の骨が見つかっており、縄文人と狩りのパートナーであったことがわかります。江戸時代までは、犬は個人の所有物ではなく、地域の財産でした。犬は餌をもらう代わりに、外部からの危険を人にいち早く知らせ、ときには子供の遊び相手になるといったように、共同体の一員としての役割を果たし、共生関係を築いていました。しかし、明治時代に入り、日本人と犬の関係は変化します。狂犬病の被害拡大を防ぐため、犬の私的所有を義務づけ、飼い主がいない犬は処分されてしまいました。これによって、かなりの在来犬が激減したといわれています。
鳥獣被害対策における犬の重要性
農林水産省によれば、平成29年度における野生鳥獣による農作物被害額は、約164億円であり、被害のうち全体の7割がシカ、イノシシ、サルによるものです。また、経済的な被害だけでなく、営農意欲の衰退や、耕作放棄地の増加を招くなど、様々な影響を及ぼしています。鳥獣被害が深刻化している原因の1つに、鳥獣が山と人里を自由に行き来でき、人里には、山からの侵入者を追い払う存在がいなくなってしまったことが挙げられます。昔は、その役割を犬が担っていましたが、そのような体制となっている地域は今やほとんどありません。現在、鳥獣対策として使われているものの1つに電気柵がありますが、一定の効果が期待できる一方で、恒常的に電気を流す必要があり、さらに破損した場合は修理しなければならず、コストが大きいという課題があります。そんな中、長野県大町市では「モンキードッグ」とよばれる、サルを追い払うために訓練された犬を活用し、約2カ月でサルが来なくなったという実績を挙げています。また、宮崎県椎葉村では農業が盛んですが、電気柵はほとんどありません。なぜなら、基本的に犬が放し飼いになっており、獣害はほとんど見られないからです。
犬が持つ多様な可能性
先に挙げた事例から学ぶべきは、野生鳥獣による農作物被害対策について、自然のことは自然にまかせる方法も模索していくべきだということです。特に、日本人にとって古来から付き合いのある犬を活用する方法は検討する価値があるように思います。今般、農業の担い手は高齢化しており、人ができることには限界があります。そのため、人ができない部分は犬に手伝ってもらい、代わりに餌をやるといった共生関係を構築するのです。犬を活用するメリットは2つあります。1つは野生鳥獣の追い払い、もう1つは地域コミュニティの活性化です。犬を活用するにあたっては、まず昔の犬の暮らしを知っている人に話を聞くなどして、「温故知新」の視点で犬について知り、人と犬の関係を見直す必要があります。そして地域内で犬に関するルールを定め、地域共通の財産として見守っていく体制づくりを行うとともに、犬がむやみやたらに吠えたり、人にかみついたりしないよう、吠えてよい範囲を覚えさせるなど、管理手法の検討が必要です。特に地域ごとのルールづくりについては、獣害による被害額や鳥獣の侵入頻度、犬を活用することによる成果を徹底的に調べる必要があり、その場しのぎではなく持続的な取組として位置づけることが重要です。また、地域コミュニティの活性化について、鳥獣被害という共通の課題を解決するため、地域の人々が個々ではなく団結して取り組みを推進することで、人と人同士のつながりを通じたコミュニティの再生が期待されます。犬という共通の話題で盛り上がるなど、犬が地域の人と人をつなぐ存在になるかもしれません。
参考文献
- 『犬たちの明治維新 ポチの誕生』 仁科邦男 草思社文庫
- 『犬の伊勢参り』 仁科邦男 平凡社新書
- 『ヒト、犬に会う』 島泰三 講談社選書メチエ
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