インタビュー「生物多様性は心を潤し、文化を育む。」 玉川大学教授 田淵俊人さん
インタビュー「生物多様性は心を潤し、文化を育む。」 玉川大学教授 田淵俊人さん
生物多様性のことを考えるとき、私たちは何を大切にすればいいのでしょうか。
今回は、水とみどりの審議会(※)の会長を務める玉川大学教授田淵俊人さんにお話を伺いました。
玉川大学農学部生物資源学科教授(平成29年度より先端食農学科着任予定)。専門分野は園芸学、造園学、生態・環境、生物資源科学。現在はトマトとハナショウブを研究テーマとしている。
※相模原市水とみどりの審議会
「相模原市水とみどりの基本計画」の適切な進行管理と評価を行う第三者機関。緑化の推進、緑地の保全、水辺環境づくり及び生物多様性の保全に関する重要事項について審議する。
生物多様性を保全するために大切なことはなんですか?
なにより重要なのはいろいろな生きものがすめる環境があることです。生物多様性のことがさかんに言われるようになったのは、都市化が進み、以前からいた生きもののすめる場所が減ってきたからです。
では、なぜ生きものがたくさんいなくてはいけないのでしょうか。古来ずっといる生きものは、ほかの生きものとお互いに助け合って今日まで生きてきました。それが何か一ついなくなってしまうと、タガがはずれるように単調になってしまいます。最終的に多様性がなくなる。多様性がないというのは、お互いが影響しあうことがなくなること。たくさんの生きものに囲まれて生きている人間の生活も淡白になって、文化が生まれないし、心にも潤いができないのです。
「生物多様性」というのは、植物や動物がたくさんいるということだけではありません。
そこに生きものがいる、という事実を知ることも大切です。
少し前、全国的に減少しているノハナショウブ(各地の花菖蒲園にある、ハナショウブの改良の基になった野生種)の自生地が青森県にあると聞き訪れました。ノハナショウブはその地域の人々にとっては身近であり、見慣れた植物だったため、はじめ地元の人でノハナショウブに興味を持つ人はほとんどいませんでした。
2011年3月11日、東日本大震災が起こり、津波によってこの地域は大きな被害を受けました。ノハナショウブがあった地域も津波によって被災しました。
しかし、開花時期の6月に私が訪れたとき、津波の被害を受けたにも関わらず、開花したノハナショウブがあったのです。そのことを伝えると、大震災の津波の被害を免れたノハナショウブを、復興のシンボルにしたいと人々が集まってきました。大震災の後移住してきた人たちも、その活動に加わることで地域に溶け込んでいったそうです。
このように、この地域では植物があることで人々の間に交流の輪が生まれていました。生物多様性は私たちの心を潤し、文化を生む可能性を秘めているのです。
相模原市で生物多様性のことを考えるとき、大切なことはなんですか。
相模原市には相模川という大きな川があり、丹沢の深い山があり、かなりの市街地がある。こういう意味で共生しているまちは本当に少ないと思います。丹沢山地と関東平野の境目にありますから、山の生きものと平地の生きものの両方がいますよね。相模原市にしかいない生きものがいないとしても、いろいろな生きものがいるということは大切なことだと思います。
昔は、自然をうまく使って自給自足や再利用をし、環境を守っていました。今は便利なものをつくり、廃棄物を出しています。便利になるのはいいことですが、過去のことを見直していくことも必要です。最近まで相模川ではアユだけでなくウナギも獲れたし、川には橋のかわりに渡し場があって木炭バスが走っていた。地域の方から何気なく聞いた話ですが、こういう歴史を知っていると、新しいことを考えるときのヒントになる。「今までの考えは古い」という考え方ではなく、昔のこともちゃんと知っておくことが大切だと思っています。
最後に、ご専門のハナショウブについてお話を聞かせてください。
ノハナショウブは水辺に生える植物です。一種の水田雑草で、以前は全国各地で見られました。6月に花が咲くので、田植えをするときにすぐそばにあった植物として人々の記憶に残っています。ノハナショウブのある風景は日本の里山の原風景なのですね。
ところが今、ノハナショウブは全国で減少しています。江戸時代につくられた様々な伝統的園芸種のハナショウブは、ノハナショウブをもとにつくられたもので、ハナショウブは水辺の文化そのもの。ノハナショウブの絶滅は文化を滅ぼすことにつながります。
私はハナショウブのDNAの解析を進めていますが、その一方で昔の人はなぜハナショウブを家の近くに置こうとしたのか、という民俗学的なアプローチも必要です。両方が大切で、そのギャップを楽しみながら研究をしています。
まさに、「多様性」の研究ですね。
田淵先生、本日はどうもありがとうございました。
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