令和6年度「さがみはら生物多様性シンポジウム」を開催しました。
令和7年2月15日(土曜日)、相模原教育会館3階大会議室にて「さがみはら生物多様性シンポジウム」を開催しました。今回は、「できることからはじめよう~生物多様性をつなぐ場所づくり~」をテーマとし、専門家による基調講演、市内の高校生・大学生による活動事例発表というプログラムで行いました。
基調講演や事例発表でお話しいただいた内容を紹介します。
第1部 基調講演「窓辺から始める自然回復~ビオトープガーデンのススメ~」
泉 健司さん(山岳環境研究所理事、NPO法人GreenWorks顧問)
窓辺の鉢花1つ、水飲み皿1つから、自然回復を始めることができます。あなたの庭や窓辺を生命のゆりかごにしてみませんか?というお話です。まず、ビオトープって何?簡単に言えば、地元の野生生物が自由気ままに出入りしたり暮らしたりできるように作られた場所です。出入りができないと、それは飼育になってしまいます。では、ビオトープガーデンとは何か?それは、野生生物と人間のための場所。やせ我慢しないでできる身近な自然保護です。
ビオトープは、周りの自然環境をよく見て、その場所にあった回復や保護の手法が必要です。都市部では、緑はたくさんありますが、よく見るとその緑は帰化植物や園芸種が大半を占めていて、その中に地元の野生種がまざっていたりします。帰化植物や園芸種であっても、花や実がついているとそれを地元の昆虫や野生動物が食べて暮らしているので、一概に悪いとは言えません。なので、第一段階としては絶滅した野生種は園芸種で代用します。近隣の野山にわずかに残っている野生種を持ってくることは、自然保護どころかわずかに残された自然環境の破壊を助長してしまうため、場合によっては帰化植物も利用します。花粉を運ぶ昆虫が戻ってきて、地元の野生種が回復し始めたら、帰化植物や園芸植物を減らしていきます。
反対に奥山では、在来野生種がほとんどを占め、多様な生育環境が地形や地質等で形成されています。人為的な影響を可能な限り減らすことが大切です。
そして、里山は人工的環境と二次的自然、残存的自然が入り組みジグソーパズル状になっています。残された自然環境を保全し、居住区では残された自然に対して負荷の少ない園芸種を利用します。
都市型のビオトープガーデンは、失われた野生植物の役割を園芸植物で補う代替型ビオトープです。水飲み皿1つ、鉢植え1つからでも気軽に始められ、花屋で手に入れられる園芸植物を利用できます。植える植物を工夫すれば、来てほしい生き物を呼び分けることもできます。
※ここでは、ビオトープガーデンのポイントのうち3つをご紹介します。その他のポイントを含めた、講演の模様はこのページ最後のリンクより動画をご覧ください
- 手に入りにくい野生の動植物は使わない
生物多様性には3つのレベルがあります。まず、種の多様性。犬や猫、アリやチョウ、トンボ等いろいろな種類の生き物がいるというのが種の多様性。次に、生態系の多様性。森に暮らしたり、小川に暮らしたり、荒れ地のようなところを好む生き物もいます。生き物が暮らすいろいろな環境があるということが生態系の多様性。
そして、遺伝子の多様性。一つの同じ種類であっても、血筋や地域差があって、個性があること、これが遺伝子の多様性。例えば、日本のメダカは太平洋側に生息するミナミメダカと日本海側に生息するキタノメダカの2種いることが最近になって分かりました。この2種は一目で見分けがつかないため、一度入り込んでしまうと、その種だけを駆除することはできませんし、交雑の恐れもあります。遺伝子汚染が起きると元に戻すことはできません。野生生物は長い歴史の中で、生育地ごとに遺伝的に最適化して生き残ってきました。他地域から不用意に持ち込むと今ある自然が共倒れしてしまうリスクが高まります。では、どこからが他地域の持ち込みとなるのでしょうか。それは、生物ごとの移動能力によって異なります。例えばキアゲハは、里のニンジン畑でチョウになった個体が、北アルプスの山頂で舞っていたりします。一方でカンアオイという植物は、落ち葉の下に隠れて花が咲き、実も半分地面に潜った状態で熟します。そのため、この植物が分布地を拡大するのは1年1センチメートルが限界といわれています。キアゲハにとっては1メートルの移動は一瞬ですが、カンアオイだと100年かかってしまいます。このように、生物の事情によって他地域というのはその種ごとでまちまちです。そのため、地元の野生生物が生き残っていない場合は他地域から持ち込まず、代わりに園芸種を使うことで遺伝子汚染の危険を減らすことができるのです。 - 小鳥たちのプレゼントを大切に
小鳥たちが運んでくる植物。小鳥のフンによって出た芽は、自然界織り込み済みで僕たちがやったことではないので、たまたまベランダに珍しい植物が鳥のしわざで運ばれてきたら、ラッキーと思ってください。 - 手入れしすぎない。
ずぼらがおすすめです。ほったらかしにしておくと、種もとれるし鳥のエサにもなります。多種類の植物を組み合わせて植えるといろんな生き物の暮らせる環境になり、食べたり食べられたりのネットワークが複雑になって病害虫の大発生が起こりにくくなるので、ほったらかしができるわけです。一種類植えはどうしても利用できる生物が限られて、単調な環境になり、一気に病害虫が広がりやすいです。いろいろな種類を植えておくと、年がら年中花が楽しめますし、地面を覆い尽くしてしまえば帰化植物が入り込みづらい環境になるので雑草取りもほとんどしなくてすみます。
生きものの種類によって、必要な場所や種類、広さは違います。そのため、個人の庭やベランダですべての生き物のためにやさしい庭というのは難しいです。ならば、ビオトープの機能をそれぞれの庭やベランダ、あるいは公園で分担したらどうでしょう。ベランダや庭、街路樹のような多様性の限られた小さな住処だけでは、身近な野生生物のための暮らしを支えきれませんが、ビオトープの機能を気ままに分担し、シェアし合うことで、町全体として多様性の高い生息空間としての利用が可能になります。とにかく長続きをすることが大事なので、まず自分たちではじめてみましょう。それぞれのおうちでわがまま気ままにお気に入りの生き物たちと仲良くすると、いつの間にか町全体が、自然にやさしい空間になるわけです。
第2部 活動事例発表
ホトケドジョウの保全活動~ホトケドジョウをほっとけない!~
神奈川県立上溝南高等学校 生物探究部
ホトケドジョウの貴重な生息域である八瀬川は上溝南高等学校から徒歩20分のところにある全長5キロメートルほどの川です。また田名望地水田は徒歩40分程のところにあり、長年、学校行事の一環としてホタル観察会を行っています。ホトケドジョウは、コイ目ドジョウ科に分類されており、レッドリストのカテゴリーでは、国と県で共に絶滅危惧1.B類に分類されています。絶滅危惧1.B類とは近い将来に絶滅する可能性が高い、という意味で設定されています。生物探究部が行う主な活動には、(1)定点モニタリング調査と(2)多地点調査があります。
- 定点モニタリング調査
八瀬川の環境がホトケドジョウの生息できる環境なのかどうかをモニタリングしていくことを目的に、環境DNA・水質データの採取、捕獲採集調査を実施し、採集した生物を分別し、測定しています。
八瀬川で確認される生き物の一部を紹介します。まず、在来種のアブラハヤ、ホトケドジョウ、サワガニ。神奈川県において、アブラハヤは準絶滅危惧、ホトケドジョウは絶滅危惧1.B類に指定されています。その他、国内外来種のカワムツ、オイカワや国外外来種のアメリカザリガニも確認されています。神奈川県主催の河川モニタリング調査から、八瀬川はホトケジョウの生息する貴重な河川ということがわかりましたが、1回の調査で確認される個体数が少ないこと、また、稚魚が一匹も確認されなかったため、多地点調査を実施することにしました。 - 多地点調査
ホトケドジョウは八瀬川の中でどのような場所に生息し、繁殖しているのかを探すことを目的に、八瀬川の上流から下流にかけて10地点に分けて多地点調査を行いました。この調査では、環境DNAを利用したデジタルPCRの手法を用いて調査を行いました。川の水をすくい、川の中に漂っている魚等の糞や剥がれ落ちうろこ等のDNAを採取し、デジタルPCRを用いて水をすくった場所にどれくらいホトケドジョウのDNAがあるか、つまりどのぐらいホトケドジョウが生息しているかを調査します。
この調査から、ホトケドジョウの検出量が少なくなると、アメリカザリガニの検出量が多くなり、その逆をいえる地点もあるということがわかりました。また、今年生まれたと思われる当歳魚が3匹確認され、DNAコピー数量が最も多い、ホトケドジョウのホットスポットといえる地点も見つけることができました。
続いて、田名望地水田の調査についてです。私たちはこれまで、田名望地水田で調査を行ったことがなかったため、メタバーコーディング解析という、環境DNAから種を同定することにより生息する生き物を知ることができる手法を用いて調査を行いました。その結果。相模川水系の魚類相と大差はありませんでしたが、残念ながらホトケドジョウのDNAは検出されませんでした。
最後に、私たちの活動の意義を再確認するため、様々な保全活動の例から、その共通点を考えました。そして、環境保全活動の意義は、人間の活動による環境の変化の速度をゆるめ、環境を破壊した原因である人間が責任を持って改善していくことにあると考えました。これからは今まで行ってきた調査結果の発表や現地調査、文化祭での展示や体験、部誌の発行などに加えて、地元市民や小中学校との意見交換をしたいと考えています。
わくわく!緑区の里山保全
青山学院大学シビックエンゲージメントセンター藤野プロジェクト
藤野は都心から一番近い里山を言われており、電車で新宿駅から1時間、横浜駅から80分程で行くことができます。実際に行ってみるとマイナスイオンが感じられるほどののどかな自然が広がっています。
私たちの活動のメインとなっているのは、「しのばら園芸市」というイベントです。このイベントは藤野を園芸で有名な場所にしようという野望のもと藤野在住の二人の方によって開催されました。私たちは、開催までの下準備や素材集め、商品開発を始めとして、当日は現地スタッフとして駐車場での車両誘導等、幅広く携わらせていただきました。
園芸市に携わるにあたり、発案者である矢田氏は園芸市の3つの心構えを共有してくださいました。
1つ目は、素材を楽しむ。(実際に都市などから運ばれてきたものではなく、里山にあるものを活かしながら、植物本来の美しさ素材の持つポテンシャルなどを改めて再発見し、楽しむ。)
2つ目は、ひと手間を加える。(自らの創造性で手間を加えることで、自分だけのものにする体験を楽しむ。)
3つ目は、分かちあう。(里山からの恵み、自然の不思議、そして自らの気づきを分かち合う)
この三つの心構えから、このしのばら園芸市というものが生まれたと考えました。
私たちは、しのばら園芸市の会場設営として、草刈りや土ならし、木を使った階段づくりを行っています。それらはしばらく放置しておくと、すぐに竹や草が成長したり、階段の段差がなくなったりと、園芸の会場としては適さない環境となってしまいます。このことから、適度に手を加えることが大切だと感じました。
生物多様性との関わりについて、里山は人間の手が入ることにより、植物や動物等様々なものを含めて、多様な生態系を維持していると考えています。その多様性とは、ありのままの自然ということではなく、人間社会との関わり方により維持されるものだと思っています。
私たちがボランティアとして携わっているしのばら園芸市が今年も開催されます。私たちの発表を聞いて興味があったり、自然に触れたいなと思ってくださった方は、今年の4月に開催されますのでそこでまたお目にかかれることを楽しみにしております。
アンケートにご記入いただいた質問への回答を掲載します。
今回のシンポジウムの基調講演・活動事例発表の内容を動画配信しています。
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